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2017年10月号

vol. 127

36色の色エンピツ

~私は社員とランチを一緒にしないことにしている。彼らの私生活が見えてしまうからだ~

私は、昼のランチも、夜の居酒屋も、社員と一緒にはしないようにしている。
実は、こういった私と同じ主義の経営者は、意外に多い。
それは、社員の「私生活」を見ないようにするためだ。知ってしまえば判断を誤るのだ。

私の知り合いに、webデザイン会社の女性経営者がいる。社員数は15名ほどで、全員がまるで家族のような会社だった。
彼女自身も「社員は家族」と言い切り、それを自慢のようにも語っていた。
だが彼女はある日突然、「社員たちとお酒を飲みに行くのをやめる。ランチも一緒にしないことにする」と言い出した。
どうしたのだろう。あれだけ「社員は家族」をモットーとしていた彼女に、いったい何があったのか。ご紹介しよう。

彼女と社員たちは本当に家族のようだった。たが一旦仕事モードとなると公私のケジメをつけ、それは見事なほどだった。
ときには社員を厳しく叱責もし、期待に応えられない社員がいれば、会社から社員を放逐することも幾度もあった。
そんなメリハリの「家族経営」をやり遂げていた彼女だったのだが、それをある日突然にやめてしまったワケだ。
それは、一人の社員が漏らした「ランチでの雑談」がキッカケだった。

ある日の昼休み、彼女はいつも通り、女子社員たちのグループに加わりお弁当を広げていた。
オフィス内では、別のグループもランチを囲んでいる。
そして、社長の隣りのグループから、こんな会話が漏れ聞こえてきたらしい。
話の主は、30代の仕事熱心な男性社員だ。人の悪口を言う男ではない。楽しそうに食事をしながら同僚としゃべっている。

「今度のボーナス、少しプラスが付いただろ。あれ、嬉しかったよなぁ」
「何に使ったの?そのプラス分」
「ああ、あのねぇ、春に小学校に上がる娘が、『色エンピツ』が欲しいって言ってたんだけどね」
「うん」
「18色を買うつもりだったんだけど」
「うん」
「ヨメさんがさ、36色にしてあげようって言うんだ」
「へー。そりゃ喜んだろうに」
「うん。娘なんて夜に、枕元にその『色エンピツ』を置いて寝るんだよ」

この話はすぐに違う話題に変わったそうだが、その会話を聞いてしまった彼女の箸がピタリと止まった。
横に座っていた女子社員が「社長、どうしたんですか?」と顔をのぞきこんだ。
「ううん。何でもない」。彼女は笑ってそう応えたが、
彼女の頭の中では、その「色エンピツの会話」が、グルリ、グルリと回り続けていた。

その男性社員は、隣のテーブルに社長がいることを、特別に意識している風ではなかったようだ。いつものことなのだ。
なのでその男性社員は、ただ単純に、この微笑ましい家族のエピソードを、同僚に聞かせたかっただけなのだろう。
だが、この「こぼれ話」を耳にした社長は、もう食事を続けることができず、弁当のフタを閉めて席を立ったと言う。
彼女は、大きなショックを受けていた。

この夏のボーナスの僅かなプラス。それは単に、目標を少し上回った分の、気持ちばかりの「オマケ」のようなものだった。
「少しだけプラスしよっか」と、しっかりした根拠もなく、わずかに「色を付けた」に過ぎなかった。
それは「気まぐれ」と言ってもいいほどの「思い付き」だった。
会社のサイフに大きなダメージもなく、清水の舞台から飛び降りるつもりもまったくなかった。

だがなんと、その気まぐれでプラスした僅かな金額で、社員の娘の「色エンピツ」が「36色」に変わってしまったのだ。
その男性社員とその奥さんは、そのささやかな娘へのプレゼントを、どれだけ微笑ましく思っただろう。
そしてこの春、小学校に入学する6歳の娘は、両親から贈られたこの「36色の色エンピツ」を、どれほど喜んだだろうか。

そんな家族の微笑ましいエピソードを、幸せに語る社員がいる。
だがそれは、彼女の単なる「気まぐれ」によってもたらされた「36色の色エンピツ」だったのだ。

「次回の彼へのボーナスをどうしよう…」。彼女はスグに考え始めた。
わずかなサジ加減で、また、彼の娘のランドセルに、真新しい文房具を入れてあげられる…。
「いや、待って…」。背筋が寒くなった。
もし逆に、男性社員の評価が芳しくなく、ボーナスを減らしたりなどしたら、
今度は、娘のランドセルには、何も入れてあげられなくなるではないか…。

「何てことをしたんだ…」。彼女は、自分の甘さを思い知しった。
ボーナスをいくらにするか、それは個人個人の客観的な評価から算出されるべきものであり、
そこに、社員の私生活を知ることで、わずかでも「情」が入り込むなんてことはあってはならないはずだろう。

仕事は仕事と、公私のケジメはちゃんと付けてきたつもりだ。だからこそ「家族経営」ができていたのだ。
だが、このいたいけのない、6歳の少女の色エンピツの話を聞いてしまった今、私はもう彼に非情にはなり切れなかった。
彼女の「経営者失格」の烙印が押された瞬間だった。

彼女はその日以来、お昼のランチを、社員と共にするのををピタリとやめた。
ランチだけではない。夜の飲み会も、土日のバーベキューも、社員との私事の場から、すべて身を引くと決めた。
「私の情緒的な思い一つで、社員の娘のランドセルの中身が変わるんだ…」
「私は、社員の家族の『幸せの蛇口』を握っているんだ…」
彼女は「知ることが怖くなった」と言う。

もう一つ、よく似たエピソードも紹介をしよう。

これも私の知人で、社員20名ほどの衣料品の縫製会社の社長の話である。
その男、いつも昼メシは社長室で1人か、会社の隣にある自宅で済ませるのだが、
ある日たまたま、昼時まで忙しく、事務所内にある、パテーションで囲っただけの会議室で仕事をしながらパンをかじり始めた。
すると、同じ事務所内で食事をしていた若い社員の一人が、こともあろうに、社長の悪口を言い始めたのだ。まあよくある話だ。
周りの同僚たちは驚き「しっ!会議室に社長がいる!」と、その社員をたしなめたが遅かった。丸聞こえだ。

社長は、暫くしてから、その悪口など聞いていないフリをして会議室を出てきた。
悪口を言った社員も同様に、何事もないようにその後を振舞った。
だが、それが遠因となるのだろうか、3ヵ月後、その若手社員は「退職届」を出したそうだ。
結局は、一度でもミゾの入った「社長と社員のスキ間」は、気まずいままに埋まらなかったのだろう。
その社長、その日を境に、絶対に事務所内では昼メシを食わなくなったそうだ。

どこの職場でも同じだが、雇う側と雇われる側は「対岸」にあるのだ。
まして社員の「会社や経営者への不満」が皆無なんてことはあり得ないのだ。もちろんその逆もあり得ない。
ならば、経営者は「会社の悪口を言う場」を、社員たちに作ってあげなければならないのだと思う。
社員に小遣いを渡し「これでみんなで飲んで、グチでもしゃべり合ってこい」と言うぐらいの度量があってもいいのだろう。
社長はグチられるぐらいが、主従の、適度な関係なのかもしれない。

さあ、2つのエピソードを紹介をしたが、この内容は真逆のように中身が違う。
前者は「社長への感謝の言葉を聞いてしまったがための(社長と社員の)決別」であり、
後者は「社長への悪口の言葉を聞いてしまったがための(社長と社員の)決別」だ。
だがそれを聞いてしまった2人の社長の心に芽生えた「感情」は、どちらも共に、仕事には「ジャマな感情」だったはずだ。
ならば経営者は常に、こういった言葉が聞こえぬ場所に、身を置かねばならないのだ。
「社長業は孤独だ」とは、その通りなのだろう。

最後に余談だが、前者の女性社長、社員の子供が小中学校に上がるとき、その全員にプレゼントを贈ることにしたそうだ。
中学入学時には「英語の辞書」を。そして小学入学時は、むろん「36色の色エンピツ」だそうだ。

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