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2018年09月号

vol. 138

伝統はひと様が守ってくれるのが気楽でいい

~日本有数の観光資源の宝庫の奈良県は、商売がヘタである。伝統が足枷となっている~

守らねばならない「伝統」がある。
だがその「伝統」を守るが余り、衰退からの脱却ができないことがある。
外野席の我々は、安易に「伝統を守ろう」と言うべきではないのかもしれない。

大阪の代表的な寺町である谷町筋に、創業が昭和4年という由緒ある和菓子店がある。
あまり詳しく書くと、実際のお店が分かってしまうので、詳しいことはここには書かないが、
この老舗の3代目が、私の大学時代の同級生である。
今、その3代目の息子、つまり4代目が、サラリーマンを辞め、店を継ぎたがっているらしく、
やや戸惑いを持つこの同級生は「どうしたもんか」と頭を抱えている。

息子が継いでくれるのは本心ウレシいらしい。
だが、息子は今のような旧態依然とした和菓子店ではもはや衰退しかない、と鼻息荒く、
その息子は、自分が店を継ぐならば、これまでの店のあり方を斬新に変えたいと言う。
ついては店の看板商品の「牡丹(仮名)」を製造中止にしようと言うのだ。
そう。悩ましきはこの「牡丹」である。

この牡丹、初代と2代目が苦心に苦心を重ね、昭和40年代に「総理大臣賞」を受けている銘菓である。
だがもうそれも40年以上も前の勲章で、見た目にも古くヤボったい昔風のお菓子だ。
だが、多くの寺社を訪れる檀家達にはまだまだ年配者も多く、
まだその「総理大臣賞」の重みがあるのか、この和菓子店はこの「牡丹」あっての老舗だという。

銘菓は今でもなお、店の看板商品としてカウンターの最前列に鎮座されている。
だがこの老舗の売上は着実に減少の一途を辿っており、このままでは店は長くは続かないだろう。
そんな中、息子は「店を刷新すべく、思い切って牡丹から卒業すべし」と言って聞かないそうだ。

さてそこで、私と3代目の同級生との会話となるが、私は同級生にこう告げた。
「牡丹をやめるのは忍びない。伝統ある総理大臣賞だろ?これを売らないのはあまりに惜しいよ!」

すると3代目の同級生は間髪を入れずこう言った。
「谷、それって皆言うんだ。惜しいって。でもその意見、すごい無責任だよ」
「無責任?」
「ああ、伝統だけは残して欲しいと言うが、そう言う人が何の支援をくれるワケでもない。
こっちは浮沈をかけた決断を強いられているんだ。伝統だけは守ってくれなんて意見はただの無責任だ」と。
なるほど。

皆が、その老舗の存続よりも、総理大臣賞の伝統の菓子を止めるのは文化継承の点で勿体無いと考えるからだろう。
答えの出ないまま、3代目の同級生は苦笑いをしながらも、
この「伝統と無責任」にまつわる面白いエピソードを紹介してくれたのでそれを紹介しよう。
観光立国を宣言しながら、伝統が足枷となり苦悶する「奈良県」の話である。
それは、この老舗の3代目が抱える悩みとまったく同じ悩みだった。

今、日本中は「観光立国日本」を謳い、47都道府県はこぞって観光に力を注ぐ。
その中で、他県が、垂涎にて羨む観光資源の宝庫であるのが京都と奈良だ。
今でも京都、奈良と言えば、旅の定番で、この世界遺産の山盛りの2つの場所を訪れたことがない人はいないだろう。
だが、この2つの府県には極端な違いがある。

京都と奈良の両方に行けばスグに分かるが、
昼間は、どちらも観光客の人の波がうねり、どこへ行っても人々々だらけだ。ここは外国か?と見間違うこともある。
そして京都は夜も人だらけだ。祇園や先斗町辺りは人を掻き分けないと進めない。薄暮の鴨川河原には、芋の子状態だ。
だが奈良は違う。夕刻になると、サッと人がいなくなり、奈良町のお店のシャッターはすべて午後8時に閉まってしまう。

この実態を表す統計がある。外国人観光客の、京都と奈良の宿泊日数をみると、
奈良で1泊以上宿泊する外国人観光客は3割にとどまり、多くの観光客が日帰りで奈良を旅行していることが分かる。
そして、奈良を訪れた観光客の8割が、夜は大阪に向い、大阪で夕食を取り、大阪で宿泊をしているのだ。
方や、京都では約9割がそのまま京都で食事し、京都に宿泊。5泊以上滞在する観光客も1割もいるという。

つまり、奈良を訪れた外国人は、日帰りでササッと奈良を観た後、夕食や宿泊でお金を落とす先に大阪を訪れているのだ。
なんと勿体無い話だろうか。
奈良は、なぜこれだけの観光資源を持ち、訪れる昼間観光客を、夜に手放してしまうのだろう。
そこには、何ともあきれた奈良県の切なき事情が見えてくるのだ。
奈良には、宿泊施設が圧倒的に少ないのある。

2013年の厚生労働省衛生行政報告例によれば、
47都道府県の中で、最も宿泊施設の客室数が多いのは東京都の14万、北海道の11万、大阪府の7万と続く。
そして、ワースト3が徳島県の9,947、佐賀県の9,922、そして最下位が、なんと奈良県の9,055室なのである。
はっ!? 日本を代表する観光地の奈良が客室数が全国最下位とな。信じられない。
これでは外国人だけでなく、日本人にも当然、日帰りされてしまっているのだ。

奈良県を訪れる人は年間約3500万人に上る。これは東京、京都、北海道、沖縄に次ぐ堂々の5番目の観光立国県である。
夕刻からが一番お金を落としてくれる時間帯だ。なのに宿泊場所が無ければ客は他県に流れていくだろう。
これでは、観光による歳入が見込めない。
なぜ、なぜこれほど多くの人が訪れる奈良県の客室数が、全国最下位とはいったいどういうことなのか。

答えはあっけにとられる理由である。
実は、奈良県の条例に「高さ制限」があるのをご存知だろうか。
実質、5階以上の建物を建てることはできないことになっている。
この5階というのは、東大寺の5重の塔の高さをおおよそ基準としているそうだ。
奈良県は、5階以上の建物を制限し、景観を保つことを「古代の都の条件」と定めているのである。

ではなぜこの高さ制限が、観光の低迷に繋がる元凶となっているかといえば、デカいホテルが建てられないからだ。
旅館にしろ、ホテルにしろ、せめて8階以上の高さがないと宿泊室数が確保できず採算が合わないのだ。

なんという不条理な事情だろう。
観光に力を入れたい。だから景観を保ちたい。そのために高さ制限をする。ならば宿泊施設が建たない。
守りたい伝統があるのは分かるが、その伝統を重んずる余り、経済的には折角の美味しい汁をこぼしている。
京都のように、それをどこかで割り切って考えねばならないはずだ。

私の同級生の3代目は、唾を飛ばしながらこう言った。
「奈良に伝統を残して欲しいという外野の意見は、日本がずっと平和でいて欲しいという意見と同じだ」と言う。
「もしアナタが、奈良町の中にある和菓子屋の立場なら、こんな無責任な発言はしないだろう」と。

奈良県のジレンマは、1,600年の歴史とのせめぎ合いだ。
3代目の同級生の和菓子老舗店のジレンマは、45年の歴史とのせめぎ合いである。
外野席からは無責任な「守るべき伝統」と言う意見が飛び交う中で、頭を抱える3代目と4代目なのである。

かつて大阪市が、橋下市長のときに、文楽への補助金を有無を言わせず削ってしまったことがあった。
「伝統は誰かが守るもの」という概念を打ち砕かれては、文楽の関係者もさぞ驚いたことだろう。
我々も、じゃあ文楽を守るべく、何か手を指し伸べたり、公演を見に行ったなんて殊勝な心掛けもなかったようだ。
所詮「伝統」なんて、誰かが守ってくれるモノなんだろう。
奈良県には、どんなエールを届けれいいのだろう。

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