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2014年7月号

vol. 088

脱下請けの本気(上)

~下請け脱却をスローガンにしている企業はあまたあるがその本気度は疑わしい~

経営の安定を考えれば、下請けからの脱却を目指すべきだろう。
だが正直なところ、
経営の安定を図るために下請脱却をしました、なんていう話は大ウソだ。

事業経営の危うさを思い知らされた2つの事件があった。
15年ほど前、我々は大きなコンピュータメーカー2社の下請けをしていた。
売上のほぼ100%を、その2社に依存していた。

そのうちの1社は、世界トップのコンピュータメーカーI社だ。
そしてもう1社は、その当時、
日本市場に鼻息荒く上陸した米国の新進のパソコンメーカーG社だった。
2社ともに、絶対に潰れないぐらいデカい。
そして2社ともに、我々は重要な役割を任されていた。
我々は下請だったが、経営の基盤は「安全圏」だと確信していた。

ある夏の暑い日、外出先で携帯電話が鳴った。
「谷さん、落ち着いて聞いて下さい」と言う。
「G社が日本から撤退するそうです」と声が震えている。
「いつ?」
「今月末で撤退だそうです」

さすが青い目の外人だ。
いとも簡単に、それまでの投資を捨て、日本市場から撤退すると。
ホルスタインの牛のマークで有名なその会社は、
1ヶ月後、まるで波が引くように日本から消え去った。
我々の売上は、その瞬間、3分の1が吹っ飛んでいった。

それから1ヶ月後のある日、今度もまた外出先で携帯が鳴った。
今度は「I社の…」と言い出した。
待ってくれ。I社が日本から撤退することはあり得ない。
だが、電話の声はこう続けた。
「I社の…パソコン事業部が無くなります」と。

なるほど、I社は撤退しない。潰れもしない。だが事業部を売るらしい。
儲からないパソコン事業を、中国企業に売却するそうだ。
一片の情もない。さすが青い目の外人だ。
我々の売上は、残りの3分の2さえも、その一瞬で吹っ飛んだ。

これが、下請け企業の「経営の危うさ」である。
5年かけて積み上げた事業が、元請けのクシャミ一つで、我々は肺炎になる。
私はそのとき「下請けは他人に命に握られている」と気付かされた。

だが「下請け脱却」は、それから何年経ってもできなかった。
試みているのにできないのだ。
この下請け脱却エネルギーたるや、とんでもない量が必要だったのだ。
生半可な決意では難しいと悟った。

だが6年後、私はとうとう下請けからの脱却を果たした。
りんくる社を立ち上げたのだ。
この会社は、直接、お客様と契約する「元請け会社」だ。
我々はついに、下請けから脱却したのである。

だが、正直に言おう。
「経営の安定を図るために下請けをやめた」なんてのは大ウソである。
それは外向けの「お利口さんのセリフ」であって、
経営の安定なんて、ホントのところ「どうにでもなるわい」と思った。
2つの事件で、あれほどの辛酸を舐めたのに、である。

私が下請けをやめたホントの理由はたった1つ。
「理不尽にもうガマンができない」。
この一点だった。
何という、辛抱の足らない理由だろう。

日本人のモチベーションの最高ポテンシャルは「恥辱」によって生み出される。
著書「菊と刀」で有名な文化人類学者のルース・ベネディクトの
この有名な言葉は当たっている。
日本人は、恥をかくならば、自らの腹を掻っ切る民族なのだ。
そして私も、それに洩れることはなかったようだ。

人は、ある年齢に達すると、
どうしてもガマンし切れない「恥辱」が沸いてくるのだ。
「この野郎…」という怨嗟のエネルギーが、
人生を変えてしまうほどに、膨張してくるのである。
それは、理想に向かうエネルギーとは種類が違う気がする。

下請け稼業はホントにミジメだ。
お客さまが、元請けを呼び「ダメじゃないか」と注意をしたら、
元請けは、下請けを呼び出し「そこの砂を噛め」と命じる。
人をアゴで使い、人を地ベタに這わすのが元請けだ。
腹は立ったが、若いうちは「まぁ、そんなモンだ」と思っていた。
怒鳴ってくるのは、すべて上席の人であり、年齢も上の人ばかりだった。
仕事が終われば「人間同士」に戻れる関係だった。

だが40歳を超えた辺りから、元請けに年下が現れた。
こいつらは簡単に勘違いし、仕事を離れても自分はエラいんだと思い込んでいる。
私は、もうガマンをやめた。
仕事をもらうため、理不尽に屈するのはもうやめたのだ。
たった、たったそれだけで、下請けをやめると決意した。
恥辱のエネルギーが、心に潜んでいた「本気」を引っ張り上げた瞬間だった。

日本企業の90%は「下請け会社」である。
下請けはハッキリ言って「楽チン」である。
営業をしなくていい。広告もしなくていい。工夫も少しでいい。
言われたことをしてればいい。怒られてもガマンすればいい。
多くの企業経営者は、それを知っている。
だが「経営の安定を図るため」なんてセリフは、実は大ウソなのだ。

世の中の「元請け企業」の大半の経営者は、
ホントは「理不尽がもうガマンならん」と奮い立ったのだ。
それが今のあまたの「巨大企業」を作ったホントの理由だ。
私は、それをよく知ってる。

(次号に続く)

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